近年酸性でかかるパーマや、傷みの少ない染毛剤やカラートリートメントなどが開発されるようになりましたが、どれも傷んだ髪を直すものではありません。また一般的なヘアダイ(酸化染毛剤)とブリーチは別物だと思っている方がいますが、アルカリ性のヘアダイにはブリーチが含まれることを忘れてはなりません。ですから、ヘアダイの場合は必ず、傷みの少ないパーマ剤を使った施術を行うときでも、損傷毛の場合は、損傷度に合わせた適切な前処理や後処理を行なうことで最高の結果が得られるのです。この意味で、特殊トリートメントを使いこなすのは、プロにしかできない技術と言えるでしょう。
アルカリ性のパーマや酸化染毛剤(ブリーチ)で施術をすると、毛髪中のタンパク質(KAP、マトリックス)が溶出します。これは髪が傷んでいるほど多く溶出します。一度流出したマトリックスは完全には補うことはできません。毛髪が傷んでくるとパーマやカラーだけでなく、毎日のシャンプーなどでもマトリックスは流出していきます。また、毛髪は紫外線やブラッシングなどの影響で、毛先に行くほど経年劣化をしています。損傷が認められたら、パーマやカラーなど毛髪に化学的な作用を行なう施術の前には、できるだけ定着性の良いマトリックスを補っておく必要があります。
使いかたとしては、パーマ、カラーの施術前にひどく傷んだ毛先などは原液~2倍液(水)を塗布します。中間~毛先は傷みに応じて2~3倍液(水)をガンスプレーなどで塗布し、コーミング後ハーフドライします。アルカリ性の化粧品カーリング剤(システアミン、チオグリセリンなど)には傷みに応じて5~10%を加えるとより安全に美しいパーマスタイルを実現します。ヌースフィットには下記3種類のPPTがあります。簡単に使うならマルチPPT32がおすすめです。ちょっとマニアックに使うならパワーKRT、パワーPPTを試してみてください。
- マルチPPT32<オールラウンド> 毛髪が損傷すると、内部に様々な形状の空隙が生じます。大きな穴が開いているところに小さなPPTを補給しても、すぐ流れ落ちてしまいます。マルチPPT32は、タンパク質の種類や大きさの異なる32種類のPPTのローションです。ケラチン、コラーゲンのほか、シルクやコメ、エンドウ豆などのタンパクPPTが含まれています。コシのなくなった損傷毛のPPT補給に迷ったら気軽に使うことができます。
※本品にはコムギタンパクPPTが含まれていますが、重篤なアナフィラキシーショックを起こしたものとは異なる分子量のものを使用しています。
- 低分子ケラチンPPT、高分子ケラチンPPT、加温重合型ケラチンPPTとジェミニ型補修剤(原料名:ペリセア)、吸着性ヒアルロン酸を配合したローションです。ジェミニ型補修剤ペリセアは毛髪に急速に浸透し、ハリ・コシ・すべり性を改善すると言われています。 ※ペリセアは旭化成ファインケム㈱の登録商標です。
加温重合型コラーゲンPPT、高分子ケラチンPPTとジェミニ型補修剤を配合したローションです。パワーKRTに対し、コラーゲンPPTを多く含んでいるため、ハリ・コシの改善に効果があります。パワーKRTとパワーPPTは、技術者の好みによって使い分けられていることが多いです。
マルチPPT32 1Lパウチ,200mLボトル
パワーKRT+ 1Lパウチ
パワーPPT+ 1Lパウチ
CMCとは細胞膜複合体(Cell Membrane Complex)のことで、隣り合った細胞の細胞膜どうしが融合した複雑な複合体のことです。毛髪のCMCには3種類あり、キューティクルとキューティクルのあいだ、キューティクルとコルテックスのあいだ、コルテックスとコルテックスのあいだに存在します。特に毛髪損傷の端緒となるのが、キューティクルーキューティクルCMCです(図1)。このCMCは写真のハムチーズサンドのような3層構造になっていて、毛髪中の水分を調節するとともに、外部からの刺激から毛髪を守る門番のような役目をしています。(図2)
また最下層の外部β層は毛髪に撥水性やツヤをもたらす18-MEAが存在します。このCMCが壊れるのが毛髪損傷の始まりで、特にアルカリ性の薬剤は18-MEAを取り去りやすく、その結果調節弁が利かなくなり急速に内部のマトリックスが失われるようになります。近年18-MEAに似た機能を持つ油脂がいろいろと開発されています。本来18-MEAは毛髪に化学結合していて疑似18-MEA様化合物が同等の機能を果たすことはできませんが、サロンでの施術時、毎日のヘアケアで外部から補うことで、健康な髪を保つことができます。
(図1)キューティクルとCMC
(図2)キューティクルとCMCの関係は
ハムチーズサンド
- スプレーコンデDD(「デデ」と呼びます)<消臭・CMC保護トリートメント> DD(デデ)はもともとスピエラ消臭とトリートメント効果を併せ持つ処理剤として開発されました。スピエラ(ブチロラクトンチオール)のパーマ剤が発売された当時は、チオグリコール酸とは異なる原料臭に多くの技術者が悩まされました。そこでヌースフィットではスピエラパーマ後の毛髪を様々な薬剤で処理し、臭気測定を行うことで、フィトンチッドとポリフェノールの混合物に効果があることを突きとめました。そしてトリートメント効果に寄与する成分として皮膚のバリア層として機能するセラミドを模した合成セラミドと細胞膜親和物質であるMPCポリマー(原料名:リピジュア)、8種類のアミノ酸を配合しました。クリームなのにガンスプレーで霧状にスプレーできる使いやすい形態になっています。ハイダメージ毛には、濃厚CMC様クリームのパワーリピッド+(略称:パワーLPD)と併用することで高い補修効果が実感できます。 ※スピエラは昭和電工㈱の登録商標です。リピジュアは日油㈱の登録商標です。
- 低分子ケラチンPPT、高分子ケラチンPPT、加温重合型ケラチンPPTとジェミニ型補修剤(原料名:ペリセア)、吸着性ヒアルロン酸を配合したローションです。ジェミニ型補修剤ペリセアは毛髪に急速に浸透し、ハリ・コシ・すべり性を改善すると言われています。 ※ペリセアは旭化成ファインケム㈱の登録商標です。
キューティクルはCMCのように3層構造になっていて(上記図1)、一番下の層が一番やわらかく水で膨潤しやすい特徴があり、その性質はアルカリ性の液では顕著に現れます。3層構造は上の層ほど硬く撥水性のため、上下に硬い層とやわらかい層が重なるため、家電のスイッチのバイメタルのように、水を含んだキューティクルは毛羽立ちやすくなり、CMCがむき出しになって壊れやすい状態になります。サロンにおける施術では、毛髪に大きな変化を強いることになります。施術の際は、ハイブリッドコポリマーを利用することで、親水性で髪が傷みやすい環境から、疎水性に寄らしてあげることで、傷みを抑えることができます。また仕上げ前には適切な薬剤を使って、やさしくキューティクルを整えてあげる必要があります。そうすることでマトリックスケア、CMCケアで髪に補給した成分がとどまりやすくなり、ハリ・コシ・ツヤを保つことができるのです。
BジェルはFMCBシステムのために開発されたジェルです。その主成分であるハイブリッドコポリマーは古くヌースフィットがストレートシステム「Mr.ハビット」の第1剤(還元剤・製品名ジュネ)ために独自に開発したポリマーでアルカリ性の強い溶液でも、溶液を疎水性に近づけることによって過度の膨潤を防ぐという画期的な効果がありました。(ハイブリッドコポリマーを含まれているアルカリ性チオグリコール酸溶液と無配合の溶液の違いを写真でご紹介します。(図3)
Bジェル
図3 ハイブリッドコポリマーの効果
RVはキトサン誘導体、へマチン、ジェミニ型補修剤(原料名:ペリセア)、MPCポリマー(原料名:リピジュア)の混合ジェルです。RVは、損傷毛の中間~毛先に塗布し、加温後、よくコーミングしてから流すことによって、枝毛の発生を抑え、ハリ・コシ・ツヤを出します。またBジェルのように化粧品カーリング料の第2剤に5~10%配合してフォーマーで塗布し、同じようにハリ・コシ・ツヤを出すこともできます。
パワーリバイズ
架橋には二通りあります。一つはBジェルやRVのように、高分子ポリマーが損傷部に電気的あるいは分子間相互作用によって吸着し、損傷部を保護するものです。もう一つは、パワーR2+のように、パーマで再結合ができなかったタンパク質の側鎖部分に化学的に結合するものです。パワーR2+はヌースフィットで40年以上にわたってお客様に支持され続けてきた架橋剤です。その昔はMr.ハビットの講習を行なうと、必ずサロンでさじを投げられた超クセ毛のモデルさんを用意されていたので、技術講師はアルカリでとことん毛髪を軟化させていました。薬剤にはハイブリッドコポリマーが配合されているものの、百戦錬磨の講師でも攻めすぎてしまうことも多々ありました。そんなとき、トロ毛になった部分にR2を塗布し、数分置くと強度がある程度戻るのです。それで施術を継続することができたのです。それで講師たちは、R2がないと講習もしないほど、R2に信頼を置いていたのです。
さらに驚くべきは、R2のブリーチに対する効果です。下のグラフ1をご覧ください。健康毛と損傷毛はドライ状態では強度はあまり変わりません。これは損傷毛は毛径が小さくなるので、単位面積当たりの強度は変化が少ないからです。しかしウェット状態ではかなり変わってきます。黄色のグラフはドライ状態、グレーのグラフはウェット状態を表しています。健康毛でも濡れた状態では強度が落ちることがわかります。これにカラー(酸化染毛剤)を行なうと半分以下にまで強度が下がることがわかります。このときパワーKRTで前処理を行なうと強度低下がある程度抑えられるのがわかります。さらにパワーR2の前処理を行なった場合は強度低下が大幅に抑えられるのが確認されました。もちろんこれは髪質によって差があるとは思いますが、弊社のお客さまでホワイトブリーチを多用するサロンによってもその効果が絶賛されています。
パワーR2+
R2はブリーチの強度低下を抑制(グラフ1)
R2は架橋剤リアクティブレジンと加温重合型ケラチンPPT、MPCポリマー(原料名:リピジュア)などの混合ジェルです。もともとはパーマ第2剤の酸化を確実に行うことを目指し開発されたものですが、損傷毛の前処理、中間処理などにもすばらしい効果を発揮することが分かってきました。
損傷毛の還元後、還元剤を流した後の毛髪は非常に敏感で、引っ張ると簡単に断毛してしまいます。こんなときにタオルドライ後、R2の2~3倍液をスプレーで吹き付け、軽くも見込んだ後、アルガノミクスツヤプラスをスプレーし、やさしくコーミングしていきます。ただドライするのに比べ、驚くほどスムーズに早く乾かすことができます。
損傷毛のブリーチの前に、あるいはひどく損傷した髪にストレートをかける前には、単にPPT処理を行なうよりもR2を使う方が強度をあげるには効果的です(R2にはPPTも配合されています)。プレーンリンス後、R2の2~3倍液、あるいはR2+マルチPPT32(1:1)の2~3倍液をスプレーで塗布し、コーミングをした後、ハーフドライしてから施術に入ってください。(グラフ1)
アルカリ性のパーマ剤やブリーチ剤で生じたトロ毛が乾いた状態は、フィブリルがばらばらの方向に散らばっているため、酸性の薬剤で直すことはできません。限界はありますが、直すためには今一度アルカリ性の薬剤で、髪を膨潤させ、フィブリルを整列しなおす必要があります。実際こうした状態にならないように、パーマやカラーをしなくてはならないのですが、どうしても必要になったときは、上記のブリーチ前の処理と同じようにR2を使って、ある程度強度を回復させてから施術を行ないます。でも、こうした施術はしない方が賢明です。する場合は、必ず毛束を用意して、トロ毛をつくり、それを直してみてから実際の施術に入るべきです。