昨年もまた、弊社ならびに弊社製品をご愛顧いただき、誠に有難うございます。
本年の皆様のご多幸、御健勝をお祈りします。
自宅近所の大宮八幡宮(杉並区)のおみくじは中吉でした。でも「心を改めれば」とか「自堕落な生活を断ち」「酒乱邪淫は家を滅ぼす」など、あまりいいことは書いてありません。たしかに酒の席での失敗は、若いころに比べ少なくなっているとは思うものの、もしかしたら自分では気づかないまずいことを今でも連発しているのかもしれません。今年の干支の「酉」はもともと酒樽の意味だそうですから、干支を思い出すたびに自戒していこうと思います。
さて、ヌースフィットの名刺にはおかしな絵が描いてあり、サロンを訪ねても「あれ、建築関係ですか?」と聞き返されることがあります。この子供のキャラクターは「ヌー坊」と言って、ヌースフィットを動かしている人たち、すなわち社員を表していて、白衣や作業着にも縫い付けられています。絵はヌー坊がお客様のヘアケアのお手伝いをせっせとやっている姿です。詳しく言えば、ヌースフィットが毛髪の基礎研究に基づいた「しくみ」を開発し、もってお客様のニーズに応えるさまを描いたものです。それを3Dにしたものが上のイメージです。
ヌー坊は、もともとは弊社舟渡ワークス(工場)の近くのバス停からイメージしたものです。かれこれ十歳になるのに、タラちゃんと同じでいつまでも幼稚なままです。
幼稚なのは、キャラクターだけにしておけばいいのですが、昨年は私を含め社員全員が幼稚であったことに気づきました。忙しいことをいいことに、原料のロットや生産スケールが変わっても試作を行なわずに実生産に入り、規格に合わないものをつくり何トンも廃棄することになりました。なんの考えも資料も持たずにお客様のところに行き、お客様の貴重な時間を奪ってしまいました。せまい工場なのに、どんぶり勘定で原料や資材を発注し、製造しているのか片付けをしているのかわからない状態になっていました。欠品や納期遅れも頻繁に起きていました。
問題なのは、そんな状況なのに、自分らはかなりいい線行っていると思っていたことです。ミスを犯した本人が、お客様や同僚に迷惑をかけているのに「誰でもミスはある」と言ってはばからない社風になっていました。会社のルールを守らないことに慣れ、それがお客様にも影響を与えていることを考えていなかったのです。
高い理想を懐いて起こしたヌースフィットでしたが、慢心が慢心を呼び、いつしか思い描いていた軌道から外れた存在になろうとしていたのです。それに気づかされたのが、お客様からの「ヌースさんは何百万円の取引も一万円程度の商売のようにやってるね」というご指摘でした。
そうだ、うちはまだ大きくなる資格がないのだ!
夏が過ぎると、皆の間にも、今までいかに甘い環境で過ごしてきたかという自覚が徐々に芽生えてきました。そこで製造を中心に、一つひとつ業務を見直し、社内整備を進めていくことにしました。そのおかげで、昨年はほとんど新製品を出すことができませんでした。しかし、社内整備を行ない、業務や製品の品質を高めていくことだけが発展への道であると信じ、改革すなわち品質向上運動を進めていきました。うれしかったのは、パートさんが積極的に協力してくれたことです。ふだん私は、皆に「自分が消費者だったら、こんな人たちにつくってもらいたい」と思うような行動をするようにと言っているのですが、主婦であるパートさんが一番の理解者ではないかと思うのです。
私たちは品質向上をお題目のように唱えていましたが、そもそも品質とはなんでしょうか?考えてみると、意外とわかりません。
日本工業規格(JIS Q 9000:2015)では品質を、「対象に本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」と定義されています。
要求事項とは、「明示されている、通常暗黙のうちに了解されている、又は義務として要求されているニーズ又は期待」のことで、クルマなら当然走り、曲がることができ、必要な安全性を満たしていることなど、数えきれないほど要求事項があることがわかります。この様々な要求事項をどれだけ満たしているかが、その対象の品質だというのです。
弊社は小さな企業とはいうものの、いろんな活動を行ない、多種多様な製品やサービスを提供しています。要求事項のすべてを数え上げていたらきりがありません。しかし、おおざっぱではあるものの、各作業や製品・サービスの要求事項を考え、これに外部・内部の課題を併せて検証したことは、私たちに現状を多面的に見る大切さを教えてくれました。
その後、すったもんだしながらも、私たちは会社の品質方針、年度品質目標、年度活動計画、年度部門品質目標、年度部門活動計画を策定し、それにまつわるマニュアル、規定書、手順書を、私たちの言葉で書き上げることができました(不完全なものですが・・)。
よく品質向上活動はPDCAサイクル(計画→実行→検証→改善)を回すことと言われますが、私たちはまだ1サイクルも回していません。
『ビジョナリーカンパニー2』という本に私の好きな一節があります。
巨大で重い弾み車を思い浮かべてみよう。金属性の巨大な輪であり、水平に取り付けられていて中心には軸がある。直径は十メートルほど、厚さは六十センチほど、重さは二トンほどある。この弾み車をできるだけ速く、できるだけ長期にわたって回しつづけるのが自分の仕事だと考えてみる。
必死になって押すと、弾み車が何センチか動く。動いているのかどうか、分からないほどゆっくりした回転だ。それでも押しつづけると、二時間か三時間がたって、ようやく弾み車が一回転する。
押しつづける。回転が少し速くなる。力をだしつづける。ようやく二回転目が終わる。同じ方向に押しつづける。三回転、四回転、五回転、六回転。徐々に回転速度が速くなっていく。七回転、八回転。さらに押しつづける。九回転、十回転。勢いがついてくる。十一回転、十二回転、どんどん速くなる。二十回転、三十回転、五十回転、百回転。
そしてどこかで突破段階に入る。勢いが勢いを呼ぶようになり、回転がどんどん速くなる。弾み車の重さが逆に有利になる。一回転目より強い力で押しているわけではないのに、速さがどんどん増していく。どの回転もそれまでの努力によるものであり、努力の積み重ねによって加速度的に回転が速まっていく。一千回転、一万回転、十万回転になり、重量のある弾み車が飛ぶように回って、止めようがないほどの勢いになる。
ここでだれかがやってきて、こう質問したとしよう。「どんな一押しで、ここまで回転を速めたのか教えてくれないか」
この質問には答えようがない。意味をなさない質問なのだ。一回目の押しだろうか。二回目の押しだろうか。五十回目の押しだろうか。百回目の押しだろうか。違う。どれかひとつの押しが重要だったわけではない。重要なのは、これまですべての押しであり、同じ方向への押しを積み重ねてきたことである。なかには強く押したときがあったかもしれないが、そのときにどれほど強く押していても、弾み車に加えた力の全体にくらべれば、ごくごく一部にすぎない。(ジム・コリンズ (著), 山岡 洋一 (翻訳)、日経BP社)
また、『GMとともに』という本には、
繰り返すが、企業は個々の製品だけではなく、製品ポリシーによって他社と競争している。
・・・生産についても、フォードを意識しながら、同じような原則を定めた。すなわち、最強のライバルと同じ効率性を実現できればそれでよい、としたのである。広告、販売、サービスも同様である。社内に向けては、優位を築くカギは、すべての事業部が足並みを揃えて、全社の方針に従うことだと訴えていった。各事業部や工場が連携を深めて、同じ方向を目指すようになれば、おのずから全社の効率がアップするはずであった。
・・・GMが製品ポリシーを築かなかったなら、低価格市場ではフォードによる独占状態が依然として続いただろう。(アルフレッド・P・スローンJr. (著), 有賀 裕子 (著)、ダイヤモンド社)自動車産業の黎明期では、フォードが独占的な優位にありましたが、どの会社も各部門が勝手に動いていて、全部門を貫くポリシーというものはどの企業も考えていませんでした。GMも寄せ集めの企業で、ビュイックとかシボレーとかいった事業部がそれぞれ勝手に事業を展開しており、きわめて非効率な経営を行なっていました。そこに部品企業の経営者だった、『GMとともに』の著者アルフレッド・スローンが社長になりました。彼が全社的なポリシーを策定することで会社が一丸となって発展し、フォードの牙城を崩し、世界最大の企業にまでなることができたのです。
小さな企業ながら私たちもポリシーをつくりました。今後はいかにPDCAサイクルを弾み車のように回していくかにかかっています。もしそれができれば、今年よりも来年、来年よりもさ来年と、より良い製品を皆さまに届けることができるはずです。そうなったとき、はじめてお客様は弊社社員を冒頭のイメージにあるような、お客様のヘアケアのために喜々として働くヌー坊に重ね合わせてくれるのだと思います。
<ヌースフィット「品質方針」>
・わたしたちは責任ある市民として法令を遵守します。
・わたしたちは高い科学リテラシーをもってお客様のニーズに応えます。
・わたしたちは営業力を強化し、適正在庫・適量生産を実施し、新鮮な製品をお客様にお届けします。
・わたしたちは問題を探し、本質を見きわめ、継続的な改善に取り組みます。<年度活動方針>(内外の課題をもとに策定した今年のテーマ)
・厳格な現状認識
・ルール厳守
・決定事項は直ちに実行平成二十九年 元旦 株式会社ヌースフィット 亀ヶ森 統