カラーバターのルーツはアマゾン川

アマゾン原産のクパスバター

 今から二十数年前のことです。外資系の原料商社の担当者が、ブラジル駐在員が日本に一時帰国したので紹介したいと連れてきました。四十代前半の、すごく日焼けしていて、見るからに炎熱商人という感じのハンサムな人でした。 ブラジルは90年代に年率5000%ものハイパーインフレが起き、同じレストランで昼に食べたものが夜には同じ値段で食べられないほどだったそうです。その影響は当時も続いており、原料も月初めの出荷価格を月末には何倍にするかいつも悩むと言っていました。

 彼からはブラジルの暮らしや人々明るさなど、興味尽きない話を色々聞くことができました。その中で、ブラジル産の原料について聞くと、面白そうなものがたくさんあり、特にアマゾン川流域に生えているクパスという木の実から採れるクパスバターは、現地では料理や化粧品などに利用されているとのことでした。私の頭の中はアマゾンとクパスで一杯になり、ぜひそれを試したいと言いました。そのときはまだ日本では商品化されていなかったのですが、何とかブラジルからサンプルを取り寄せるとのことでした。 何週間かして他のブラジル産の原料とともに、ガラス瓶に入ったクパスバターのサンプルが届きました。早速トリートメントに配合してみたところ、とても感触が良くなることがわかりました。動植物性の油脂は、どれもがその組成の大部分がオレイン酸やステアリン酸など少数の脂肪酸の混合物ですが、その比率によって感触は大きく異なります。例えば私はマカデミアンナッツ油の風合いが好きなのですが、トリートメントに配合したときの感触はオリーブ油とはまったく異なり、動物性のミンク油に近いものです。私はこの原料が商品化されたら、ぜひ開発中のカラートリートメントに配合しようと思いました。

 こうして生まれたのが「キュプアスカラーバター」です。クパスバターという原料名をそのまま使うと問題になる可能性があったため、「キュプアス」としたのです。その後「カラーバター」という言葉だけが独り歩きするようになったのです。カラーバターのラベルの真ん中のデザインは、アマゾン川とクパスの木と私の想像上の女神です。左は植物性PPTを表しており、右は台湾の故宮博物院で見た「夢」という文字の甲骨文字です。

アマゾン川とクパス

 私は、原料会社のブラジル駐在員からクパスバターの話を聞いたときから、すぐにでもブラジルに行きたいと思っていました。しかし人生は思ったようには行かないもので、行くことができたのは2019年になってからでした。日本からドーハ、サンパウロ、ブラジリアを経由してマナウスに行きました。途中レンソイスに行ったので、36時間の航程でした。ちなみにレンソイスはブラジル北東部の大西洋岸にある水晶でできた白い砂丘です。

レンソイス

レンソイスの砂丘と湖(上空から)

レンソイス

レンソイスの砂丘と湖

砂丘とカラーバター

砂丘とカラーバター

 飛行機から見たアマゾン川は私の今までの川の常識をはるかに超えるものでした。飛行機で横断するのに2分もかかったのです。大西洋岸にそそぐ河口ではその幅が300㎞を超えると言います。 中ほどにあるマナウスは、19世紀末からゴム産業で栄華を極めた町で、富豪たちがジャングルを故郷のヨーロッパのようにつくり変えていったそうです。だいぶ前からホンダやヤマハなど日本の自動車産業も進出していて、現地の雇用を支えています。 私たちは7月に行ったのですが、残念なことにクパスの実の収穫はすでに終わっていました。かろうじてクパスの木だけを見ることができたのですが、実がなっているところを見ることはできませんでした。



クパスの木

クパスの木

クパスの木とカラーバター

クパスの木とカラーバター

 サンパウロのガイドさんはクパスの木のことを知りませんでしたが、こちらでは生活の隅々までクパスが利用されていることを知りました。レストランではクパスの果肉を使ったジュースやムースがあり、空港や市場ではクパスバターを使ったチョコレートや、リキュールが売られ、石鹸もありました。そして、マナウスを離れるころになって、現地に40年住んでいるガイドの錦さんが、友人を通じてクパスの実を持ってきてくれました。しかしクパスの実はブラジル政府が厳重に規制しており、たとえ国内線でも飛行機に乗せることは禁止されていました。しかたなく空港で実を割り、果肉を食べてみました。ジュースなどでも感じたのですが、独特なクセとほのかな甘みがあり、慣れればおいしいのだろうと思いました。

クパスのお菓子を売っている店

クパスのお菓子を売っている店

クパスのアイスクリーム

クパスのアイスクリーム

クパスのジュース

クパスのジュース